日高見工務店の家造り

高気密・高断熱住宅の歴史

【ナミダタケ事件】

昭和48年のオイルショックをきっかけに、北海道では住宅の断熱化への関心が高まり、壁、床、天井に100mmのグラスウールを入れるようになった。ところが、家はぜんぜん暖かくならず、逆に大問題を引き起こすことになった。
昭和50年代に、新築してわずか2?3年の住宅の、土台や床が腐って落ちるという被害が相次いだ。札幌だけで、数百件の被害があったといわれる。床下では「ナミダタケ」という腐朽菌が大発生していた。「ナミダタケ」はキノコのように大きく増殖して木材を腐らせた。水分を吸収してその水分を涙のようにたらすので、その名前がついたといわれる。

 

【ナミダタケ発生の原因】

原因は、床下土壌からの湿気や、壁内の結露水が、グラスウールに吸収され、木材を湿潤状態にしたためと判明した。しかし、どうしたら防げるか明快な答えがなく、業界は混乱した。その中で、さまざまな研究がなされ、対策がとられることにより、徐々に「「ナミダタケ」の発生は収まっていった。

通気層工法や、土間床防湿シートはここで生まれた。さらに、断熱材に結露する原因が、在来工法の致命的な欠点である通気性にあることをはじめて提唱したのが、室蘭工業大学の鎌田教授である。床と壁の取り合い部、壁と天井の取り合い部に隙間があって、床下から天井まで煙突のように自由に通気するのが、ごく普通の在来工法である。鎌田教授は気密シートや気密テープを使って気密工事を行う改良型在来工法を「新在来工法」としてマニュアルにまとめ、発表した。ここに在来工法の「気密化」の考え方がはじめて登場した。

なぜ壁の中を通気すると結露するのだろうか。詳しい話は、3章の「どうして結露するのか」をよんでほしいのだが、要するに、暖房で暖められた空気が壁の中に入って冷やされるとそこで結露する、ということである。そこにグラスウールがあると結露水がどんどん吸収されて、「水をたっぷり吸った綿」の状態になる。

さて、当時、気密化には有力な反対意見が相次いだ。「気密化すると木材が腐る。木は空気にさらしてこそ長持ちするのだ。」というものだ。現在でもこの意見は建築業界に根強く残っている。しかし、日本の高気密・高断熱の20年以上の実績と、カナダ政府による超高性能住宅マニュアルR-2000など、世界の住宅研究のすう勢からも、このような感情的で保守的な考えが間違っていることは明らかである。

 

【高気密・高断熱工法の登場】

「新在来工法」と前後して、この時期に高気密・高断熱工法が数多く登場した。FP工法(松本建工)、SHS工法(ダウ化工)などが代表的なものである。
FP工法は、ウレタンパネルを使った充填断熱工法である。
SHS工法は外断熱工法の元祖である。ダウ化工の販売子会社である富士化学が断熱材の販路拡大のために開発した。当然、断熱材はスタイロフォーム(発泡ポリスチレン)である。富士化学は特許を取得したが、公開したため、アキレス、カネカなどの発泡系断熱材メーカー各社が独自の外断熱工法を展開した。

 

 【高気密・高断熱工法同士の戦い】

FP工法や外断熱工法は、発泡系の断熱材を使用して、高気密・高断熱住宅の歴史を切り開いた。しかし、その過程で、営業戦略上、「グラスウールを使うと結露でぐしょぐしょになり家がすぐ腐る。」と自社の工法の優位性をアピールした。

グラスウールメーカーは、全国で圧倒的なシェアを持ち、その多くが高気密・高断熱にまだ無関心な工務店がユーザーであったために、有効な反撃ができなかった。唯一新住協という組織が、グラスウールを使った高気密・高断熱の「新在来工法」を推進していた。新住協は、「改良された新在来工法でのグラスールは安全である」「外断熱は可燃性の断熱材を使っているので火災に弱い。」などと反撃した。

ここに内断熱VS外断熱の戦いが始まる。
さらに、「気密は木材を腐らせ健康にも悪い。適当な通気が必要だ。」という保守的な建築家がまだたくさんいて、高気密・高断熱工法は、さまざまな情報が乱れ飛ぶ、きわめてわかりにくい世界になってしまった。

 

【満足度の高い居住環境】

外断熱工法は、断熱材メーカーが拡販に努力し、工務店への技術支援も惜しまなかった。当時の一般住宅とは比べようのない住宅性能は、満足度の高い居住環境を実現し、ユーザーの信頼を勝ち取った。

一方、グラスウール陣営は、高いシェアを誇るグラスウールメーカーの怠慢があった。新在来工法は、新住協という組織が中心となって地域工務店への普及を図った。気密シートや気密テープを使うなどそれまでにはない技術だったので、技術の習得に手間取り、施工できるのは一部の熱心な工務店にとどまった。また、技術の習得度などにより、満足度の高さにもばらつきがあった。それでも、きちんと施工された家は十分に満足度の高いものであった。

外断熱工法と新在来工法の2つの工法は、木造在来工法の省エネ標準仕様として採用され、住宅金融公庫の標準仕様書や、(財)省エネ機構の次世代省エネルギー基準と指針に取り入れられた。

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